<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<rss xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" version="2.0"><channel><atom:link rel="hub" href="http://tumblr.superfeedr.com/" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"/><description></description><title>see/pass you again</title><generator>Tumblr (3.0; @seepassyouagain)</generator><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/</link><item><title> 深夜ともいえない時刻に帰宅してひどく洗濯をしたかったけれども洗うものはもうないので部屋を見まわしカーテンをはずして洗う。棒の先に平たい板のついた掃除用具に薬品の染みこんだ丈夫な厚紙を装着して床を拭く。...</title><description>&lt;p&gt; 深夜ともいえない時刻に帰宅してひどく洗濯をしたかったけれども洗うものはもうないので部屋を見まわしカーテンをはずして洗う。棒の先に平たい板のついた掃除用具に薬品の染みこんだ丈夫な厚紙を装着して床を拭く。ひとりがけの気に入りの椅子とカフェテーブルを載せた小さいラグと下に衣装ケースを格納したベッドを除いたむきだしの床板に落ちているのは今日のかばん、簡潔なスピーカ、読みさしの本と照明器具を載せたサイドテーブル、同じく読みさしの本がいくらか、まるごと洗うことのできるプラスティックのごみばこ、細い縦長のテッシュペーパーケース、MacBookを入れてスティーブ・ジョブズごっこをするのに使っているおそろしく丈夫な和紙の茶封筒、化粧品やなにかを入れている小さい籐の籠、キッチンマットを兼ねたバスマット。順繰りに除けて二度拭いて厚紙をはずしそれでもって三和土を拭く。にせものみたいな石が貼ってあるけれども三和土というよりほかに呼び名を知らない。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　夕刻にPCに向かっておむすびを流しこんだきりだったのを思い出して冷蔵庫をあさる。新という接頭語をつけるのがそろそろそぐわなくなった玉葱とじゃがいもを見つけて乱暴に皮を剥く。新しいから冷蔵庫に入れておいたけれどもそろそろ外に干しておこうと思う。木のふたのついたほうろう引きの、ずいぶん気に入って買ったバターケースのなかのうす黄色したかたまりをごっそりこそげてフライパンに落とす。キッチンばさみで刻んだベーコンのすぐ焦げるのがうれしくってじゃがいもと玉葱を加えるとものすごい音がしてまだ「新」だったんだなと思う。塩を振ってぜんぶをかきまわす。カーテンをレールに吊るす。フライパンまで走ってまたかきまわす。感じのいい焦げ目がついているので機嫌をなおして（朝からずっと機嫌が悪かった）粗挽きのミルでもって粒の胡椒を挽く。カーテンをレールに吊るす。私は背が高いから標準的なアパートメントのレールなんか誰の手も借りなくったって征服することができる。フライパンをかきまわす。焦がしバターと胡椒の奥、ついに発芽することのできなかった芽の呪いのにおいがする。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　ジャーマンポテトができあがると私はすでにそれに飽いていて明日のお弁当の下の段に入れたらいいと思う。上の段にはほうれん草のおひたしとだし巻き卵を入れて冷凍しておいたたきこみごはんのおむすびを凍ったまんま持っていこうと思う。どこの国の料理か知れないけれども食べるのは私だけなんだからかまわないと思う。だし巻き卵をつくる小さい四角いフライパンを持っていることが何度でも私にはうれしいのでバケツみたいに小さいシンクの下の棚に入っているそれについて考えてそれからうっすら笑って、卵ひとつだとおいしくできないからいっそ三つ割ってしまって朝と昼とそれから次の日に食べようと思う。夜はいけない、約束があるからうんと遅くなるのだし、だいいち夜にだし巻き卵を食べるなんておかしなことだ。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/51066255133</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/51066255133</guid><pubDate>Wed, 22 May 2013 21:45:00 +0900</pubDate></item><item><title>　ホテルの内部はいつでも既視だ。刺激を極限まで減らした無個性な調度、ひたすらな清潔、微生物とそれからもしかすると微かでない生物を殺す乾いた空気。制服。形式的な笑顔。形式的なせりふ。形式。形式。形式。その...</title><description>&lt;p&gt;　ホテルの内部はいつでも既視だ。刺激を極限まで減らした無個性な調度、ひたすらな清潔、微生物とそれからもしかすると微かでない生物を殺す乾いた空気。制服。形式的な笑顔。形式的なせりふ。形式。形式。形式。そのほかは周到に排除されている。私は彼らにほほえみを返す。形式的に。私はそれを好きだ。私をおびやかさないから。私を追い遣るから。微かな生物であるところの私を。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011817196</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011817196</guid><pubDate>Thu, 09 May 2013 22:50:39 +0900</pubDate></item><item><title>　自分にとってあまり重要ではないウェブサービスの登録に使っているメールアドレスから買い物をしろという意味のメールが届く。千円分のポイントが失効するから使ってしまえという。しかし私はそもそもそのサービスで...</title><description>&lt;p&gt;　自分にとってあまり重要ではないウェブサービスの登録に使っているメールアドレスから買い物をしろという意味のメールが届く。千円分のポイントが失効するから使ってしまえという。しかし私はそもそもそのサービスで買い物をしたことなんかないのだ。ないけれども、系列の別のサービスのアカウントは持っていて、そのために「プレゼント」されたのだという。&lt;br/&gt;
　しかたがないのでそのサービスにはじめてログインし、送料無料で千円のドライフルーツを買ってゼロ円を支払った。そういうふうに表示されるのだ。これは買い物だし、商品は私の手にきっと届くのだろう。三種類選べるそれを桃だの梨だの乾かすのがおかしいようなものにして、釈然としない義務みたいに注文したそれは、でもきっとちゃんと食べられるし、けっこうおいしいものでもあるんだろう。たぶん。&lt;br/&gt;
　ブログで使っているメールアドレスにも同じようなものが毎月届く。抽選でポイントをプレゼントしてくれたのだという。毎月あたる抽選なんてあるんだろうか。定員割れしているのだろうか。百人に対して千個の当選があるとき、はたしてそれは抽選といえるのだろうか。ともかく毎月送られてくるのだけれども、私はそれがなにに使えるか知らない。ブログは書いて出せればそれでいいので、だからほかにはなんにもしていない。ポイントたちは謎めいた沈黙を守って、ただ少しずつ増えている。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　このメールアドレスにはほかにも妙なメールが届く。&lt;br/&gt;
　文章を書きませんかというのがその代表的なものだ。文章はもう書いているけれども、それのことではなくって、こういうのを書けというような指示がついている。それでどこかの媒体に載せるのだという。無料だ。要するに「書かせてやる」と（丁寧なことばでいささか迂遠に）書きつらねたメールなのだけれども、今までに三通来て、差し出しはぜんぶばらばらなので、なんだかぽかんとしてしまう。&lt;br/&gt;
　ただで注文どおりの原稿を書いて喜ぶ人がいて、だから彼らは私にそういうメールを送ってくるのだと思う。その媒体が好きなら、あるいはただで喜んで注文どおりの文章を書くかもしれないけれども、メールをくれたところは、好きも嫌いも、そもそも知らないところだ。なかには延々とその媒体について書かれているものもあるけれども、長い自己紹介だけで好意を得られると思っているなら、ずいぶんと自信があるのだなと思う。好きでないから、しない、と思う。私は、注文のとおりになんかできないと思うし、注文のとおりにできないのだろうと気を揉むのもいやだし、だから、しない。書きたいものを書きたいように書いて出すだけでなんだか叱られることだってあるのに。&lt;br/&gt;
　&lt;br/&gt;
　ドライフルーツが届く。もしかすると私は原稿を書いたのかもしれないと思う。注文どおりに、とっても上手に、彼らの満足するように。これはそのお礼に届いたのかもしれない。心づけというか、粗品というか、そんなものなのかもしれない。&lt;br/&gt;
　半生に仕上げられた桃をあいまいに噛むと、とても賢そうで裕福そうなようすの、誰もが好きになる媒体を運営している誰かが、原稿を書いた私の頭を撫でてくれる。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011791200</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011791200</guid><pubDate>Thu, 09 May 2013 22:50:00 +0900</pubDate></item><item><title>そのせりふに体温を上げながら、恥のようなものも熱のようなものも傷のようなものもぜんぶ、技術で引き起こせるんだと、頭の裏で思う。</title><description>&lt;p&gt;そのせりふに体温を上げながら、恥のようなものも熱のようなものも傷のようなものもぜんぶ、技術で引き起こせるんだと、頭の裏で思う。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011799690</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/50011799690</guid><pubDate>Thu, 09 May 2013 22:50:00 +0900</pubDate></item><item><title> 深夜に帰宅して巻きのゆるいやわらかなきゃべつの外葉を一枚剥がし、うす黄がかった葉を好きなようにちぎる。新玉葱を薄切りにして塩とオリーブオイルで和えちぎった水菜の上に載せて塩とバルサミコ酢を振る。そのオ...</title><description>&lt;p&gt; 深夜に帰宅して巻きのゆるいやわらかなきゃべつの外葉を一枚剥がし、うす黄がかった葉を好きなようにちぎる。新玉葱を薄切りにして塩とオリーブオイルで和えちぎった水菜の上に載せて塩とバルサミコ酢を振る。そのオリーブオイルの瓶を熱したフライパンに傾けて鷹の爪とにんにくを熱しベーコンをちりちりに揚げて取り出しそれだけをサラダに置いて、フライパンにざっと洗ったきゃべつを炒めアンチョビを追加する。フライパンの限界までつくったそれの三分の二を台所でいちばん大きい保存容器に入れ、手を抜いて電子レンジで加熱したパスタをフライパンに落としてなじませる。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　連休の前半が出張でそのあとは休みなのでお世話になった人の送別会のあと近所の飲み屋で隣に座った知らない夫婦と村上春樹の新刊の話をして、いま何を読んでいるんですかと訊くのでかばんからソローキンを取りだし、でもふだんはアメリカ文学ですと言ったらオースターの話になって、知りあいに柴田元幸のゼミ生がいてこんど私のためにサインもらってくれるんですよ、まじですか、なんてことだ、というような話をし、ミシシッピのつづりにsがいくつ入っているか突然気になった夫妻の夫のほうと私がカウンタに指を走らせ（残るひとりであるところの夫婦の妻のほうは英語圏からの帰国子女なのでうふふと笑って私たちを見ていた）、これも春樹ですよどうしようと嘆き、夫妻は舞台や映画をよく観るのに『トニー滝谷』を観ていないというので、主演の女優さんがとにかく美人で美人でしょうがないからDVDを借りてくださいと言いおいて交差点で手を振って別れた。帰ってきたら送別会でろくに食べていなかったことを思い出して台所に立ち、ばかみたいな量のオリーブオイルと野菜を摂取しながら、それみたことか、と思う。それみたことか、みんな本とか読むじゃないか、私と同じ本を読んでいる人が、そこいらへんにうろうろしてるじゃないか、本屋だっていっぱいあるじゃないか、やくたいもない小説を延々と読んでいるまともな大人なんかそうはいないだなんて、そんなの、まるっきりの嘘じゃないか。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/49366147900</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/49366147900</guid><pubDate>Thu, 02 May 2013 01:29:00 +0900</pubDate></item><item><title>　新刊はもちろん注文しておいたので発売日から三日ばかり過ぎたような今日、手に入れて（本屋さんに取りに行くことができなかった）、それで読んでいるけれども、まだ読みさしだから、感想を書こうと思わない。ただ、...</title><description>&lt;p&gt;&lt;span&gt;　新刊はもちろん注文しておいたので発売日から三日ばかり過ぎたような今日、&lt;/span&gt;&lt;span&gt;手に入れて（本屋さんに取りに行くことができなかった）、それで読んでいるけれども、まだ読みさしだから、感想を書こうと思わない。ただ、最初のほうに、背中のあるところにおそろしく繊細な場所があってそれがなにかを感知するという描写があって、同じようなものを持っているからずいぶんと気に入った。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　私の「それ」は頚椎の何番目かにあって、ある種の事象に対してちりちりと痺れのような熱のようなものを感じさせる。何年か前だと思うけれども、それについて男の一人称で書いて、その骨を「僕の倫理」と呼んだ。私はもちろん「私の倫理」と呼んでいる。誰にもその話をしていない。たぶん。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　どうしても許されないことがあるとそれは焼け焦げるので、だからそう呼んでいる。要するに肩こりのひどくなったのが神経に障っているんだろうと、そんなふうにも思うけれども、心に悪いしかたで障るものをそんなふうに明瞭な感覚で知らせてくれるなんて私の身体はなかなかいいやつじゃないかと思う。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　私は「私の倫理」に関する話をせず、それが名指しした人間をそっと遠ざける。それが苦しかったことはない。私は彼らを愛したことがなかった。私はただ理由がないから、彼らの好意を拒絶するそぶりをためらっていただけなのだ。私のちっぽけな頚椎のひとつは私よりも賢くて、私はそれを、悪くないことだと思う。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/48037842159</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/48037842159</guid><pubDate>Mon, 15 Apr 2013 22:03:00 +0900</pubDate></item><item><title>　喉の奥からいかにも苦しげな音の咳が出つづけてひと月ちかくになる。同僚に同じ音の咳が一週間続いている人がいて、ふたりとも風邪ではなく、重症の花粉症なので、花粉症が気管支に悪影響をおよぼしているのではない...</title><description>&lt;p&gt;　喉の奥からいかにも苦しげな音の咳が出つづけてひと月ちかくになる。同僚に同じ音の咳が一週間続いている人がいて、ふたりとも風邪ではなく、重症の花粉症なので、花粉症が気管支に悪影響をおよぼしているのではないかと、そのような話をした。音はえらく不吉で、今にも血を吐いて倒れる人のようだけれども、当人は平気で、ちょっとうっとおしいな、くらいで、わりと元気にしている。&lt;br/&gt;　ただ止まることがない。&lt;br/&gt;　ずっと病人の音が出ている。咳をしているときでなくても、耳を澄ませると喉の下のほうがひゅうひゅうと音をたてている。空気の通りみちが少し狭いように思われる。そんなに苦しいのではない。だいいちもう慣れてしまった。なにかが入っている感触。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　そこにはなにかしらの異物が入っている。&lt;br/&gt;　蓮の花が生えてくるなら胸と決まっているので、気管支だから、かえるの卵かなにかだと思う。どこかのまぬけなあまがえるが私の口を水たまりと間違ったのだ。喉の奥の奥にうっすらと膜がはっているような気がするのは、卵を保護するなにやらぬるぬるしたものがついているのだ。&lt;br/&gt;　卵のいくつかはもう孵っただろう。私の胃の酸をさけておたまじゃくしたちはその手前だけで泳いでいるのだろう。彼らはいつかかわいいかえるになって、沼である私のなかから、陸に出ようとするだろう。つぶらなひとみの小さな小さな、何百というあまがえるたち。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　そのような妄想をもてあそびながら、病気じゃないんですと私は言う。風邪じゃないんです、うつらないですよ、だから私の話を聞いてくださいね。私のプレゼンテーションの相手はそれを聞いてお義理ばかりに笑う。病気じゃないんです。かえるたちはとても健康でつやつや光っている。おたまじゃくしは体長三ミリ、かえるになっても五ミリもない。彼らは跳躍し出口をめざす。きょうだいたちの最後の一匹のしっぽが消えた日、空気の新鮮なほうを向いて、いっせいに移動を開始する。かえるたちは喉をとおり、鼻孔をくぐりぬけ、眼球を押しのけて外界をめざす。かえるたちはとても小さくやわらかいから私を深くは傷つけない。さようなら、さようなら、さようなら。何百何千のあまがえるの、最後の一匹がからだを離れると、私はすっかりさみしくなってしまう。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/45338049168</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/45338049168</guid><pubDate>Thu, 14 Mar 2013 20:11:44 +0900</pubDate></item><item><title>振り向けばなくなりそうな追憶のゆうやみにさくいちめんのなのはな
河野裕子
&amp;#8212;
この時期の短歌は桜でなく、なにしろ菜の花です。以前も投げた気がする。</title><description>&lt;p&gt;振り向けばなくなりそうな追憶のゆうやみにさくいちめんのなのはな&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;河野裕子&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;&amp;#8212;&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;この時期の短歌は桜でなく、なにしろ菜の花です。以前も投げた気がする。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/45107554838</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/45107554838</guid><pubDate>Mon, 11 Mar 2013 22:22:56 +0900</pubDate></item><item><title>　狭い空間にふた口のコンロとグリルとそれなりの収納力の棚が詰めこまれ、冷蔵庫のための場所が確保された結果として、シンクが冗談みたいに小さい。ちょっとしたバケツくらいしかない。あんまり大きい鍋を持っていな...</title><description>&lt;p&gt;　狭い空間にふた口のコンロとグリルとそれなりの収納力の棚が詰めこまれ、冷蔵庫のための場所が確保された結果として、シンクが冗談みたいに小さい。ちょっとしたバケツくらいしかない。あんまり大きい鍋を持っていなくてよかったと思う。そこそこの大きさの片手鍋がはかったみたいにぴったり入る。実に洗いにくい。シンクと呼ぶのがはばかられるので「うちの据え置きバケツ」と呼んでいる。底は傾いているので、グラスのひとつも立てて置いておくことができない。横倒しになる。私は流しによくついているゴム製の、ぴらぴらした蓋みたいなのがどうも好きではなくって、外している。その部分に向かって、流しの底が全体に傾斜している。&lt;br/&gt;　それにしてもあの流しの穴のゴムのぴらぴら、あれはいったいなんのためにあるのか、私にはひとつも理解できない。台所にあるほとんどすべてものを（バケツシンクさえも）私は愛しているけれども、あれだけは好きになれない。洗ってもどことなく汚れている感じがするし、だいいち、ろくな仕事もしていないものをしょっちゅう洗ってやらなくていけないのが腹立たしい。それだからこの数年は外しっぱなしにしている。蓋のある下にはゴミが入る小さい籠がついているんだけれど、それだって控えめな缶ジュースくらいしかないんだから、調理のたびに中身を捨ててさっと洗ってあげれば、それでじゅうぶんだと思う。あんなわけのわからないもので覆い隠す必要はない。捨ててやりたいんだけれど、引っ越すときに置いていかなくてはならないような気がして、プラスティックバッグに入れて、棚の隅に仕舞ってある。それもうっすらといやだ。あんなのはもっと下等な場所に位置しているべきだと思う。&lt;br/&gt;　水切りかごを置くところだって小さいから、少しばかりはみ出しているけれども、買い換えるのも業腹なので、むりやり使っている。前の家はさらに狭くって台所と居室の境目に置いた冷蔵庫がバリケードみたいに突き出していたから、水切りかごがはみ出しているくらいどうということはない。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　ひとりで、職住近接を指向し、裕福なのでもないから、台所はいつだってとても小さい。&lt;br/&gt;　都合や気分で引っ越す自由を確保したいので、家を買いたいと思ったことはないんだけれども、マンションを買った友だちが自分たちの身長に合わせて台所をつくっていたのだけは、とってもうやらましかった。台所というのはどうしてあんなに、低いのか。平均身長の伸びに追いついていないんじゃないか。昔の日本家屋の台所がうんと低いのはしかたのないこととして、築十年程度でもけっこう低かったりする。&lt;br/&gt;&lt;br/&gt;　それだから台所にいるときに私はいつも身をかがめてごく小さい空間をくるくると動く。洞窟のなかで煮炊きしているような気持ちになる。狭くて安全な穴ぐらのなかにいて、原始的な生活をしているような気持ちになる。あくの強い野草をぐつぐつ煮たいと思う。うさぎの毛をむしって吊るしたいと思う。外に出て、石をもって小さいけものを打ち殺し、血を抜いて、それで持って帰ってきたいと思う。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44618169076</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44618169076</guid><pubDate>Tue, 05 Mar 2013 23:10:00 +0900</pubDate></item><item><title> 愛の主成分は欲望と期待である、と彼女は考えていて、前者を正当な、後者を卑しいものとして取り扱った。</title><description>&lt;p&gt; 愛の主成分は欲望と期待である、と彼女は考えていて、前者を正当な、後者を卑しいものとして取り扱った。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44452984279</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44452984279</guid><pubDate>Sun, 03 Mar 2013 23:03:39 +0900</pubDate></item><item><title>　数十年単位の卒業生が集まる大規模な同窓会に出る。　ホテルの宴会場で受付に並ぶ前からいくつかのグループができていて、きゃあきゃあ騒いでいる。私もそこを渡りあるいてきゃあきゃあ騒ぐ。そういうのは重要なこと...</title><description>&lt;p&gt;　数十年単位の卒業生が集まる大規模な同窓会に出る。&lt;br/&gt;　ホテルの宴会場で受付に並ぶ前からいくつかのグループができていて、きゃあきゃあ騒いでいる。私もそこを渡りあるいてきゃあきゃあ騒ぐ。そういうのは重要なことだと私は思う。こんなところで黄色い声を出すのは要するに今現在ぜんぜん親しくないからで、彼らは私の選択しなかったまぼろしの友人たちだからだ。&lt;br/&gt;　斜め前に長い髪をただまっすぐに落とした女の子がいて、私をじっとにらんでいる。くっきりと痩せて目のまわりにだけ色数の少ない化粧をほどこし、ひどく清潔で、フリーマーケットで五百円だして買った単純なかたちの短いスカートから棒きれみたいな素足をさらけだしている。彼女は毛先をカールさせ複雑にカットされた裾を揺らして内容のない社交の語彙を駆使する私を鼻で笑う。私は彼女にちいさく手を振る。彼女は目をそらさない。誰にも愛想笑いをしない。彼女が軽蔑の仕草で髪を振ると安い石鹸の香りがする。私は先月買い求めたジャスミンと中国茶のにおいをつけたオーガニック素材のシャンプーを少しだけ恥じる。今月のうちにほんものののジャスミンの鉢を買うつもりであることを彼女に話したいと思う。微細な&lt;span&gt;粒状の金のチェーンで吊られ同じもので縁どられた真珠母貝のネックレスとブレスレットについては、その来歴を語り恥じるべきではないすてきな装身具だと説明したいと思う。ほとんど顔を覚えていない誰かと笑いあって、そうしながら彼女にこうした形式の重要性についても伝えるべきだと考えて振りかえる。&lt;br/&gt;&lt;/span&gt;&lt;span&gt;　彼女はもういない。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　乾杯が済むと人々は私に名刺を差しだす。私も差しだす。私たちのさかんなお辞儀の滑稽さを彼女はわかっている。彼女は壁際に、あるいは私のすぐ背後にいる。私はときどき彼女と視線を交わし、あなたがわかっていることを私はわかっていると伝える。&lt;br/&gt;　彼女がいるから私は目の前の人間がかつて人前で私を罵倒したことをきっちり思い出す。私はしきりと話しかける彼にうなずきながらバナナの皮で滑って転べと全力で祈る。死ねばいいのになんて大人は思わないの、と私は彼女に話しかける。死は重要な絶望と救いなので、こんなくだらないやつに遣ってはならない呪いなの。&lt;br/&gt;　でも彼女はみっつ離れたテーブルの向こうで私に背を向け、私が昔から今まで親しくしている、つまり彼女の親しい友人の前で熱心にうなずいている。すぐれたデザイナの手になる気に入りのワンピースに身を包み少しくだけたジャケットを引っかけてその皺を完全に味方につけている&lt;span&gt;友人は彼女から目を逸らさないまま私に軽く手を挙げる。私もそのようにする。友人は来週の日曜日に私と食事をする約束を交わしている。いつものように。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　頬がふっくらとして可愛いので少し好きだった後輩がずいぶん長いこと私のいるところを離れないので、誰か話したい人がいるなら連れていくよと言う。後輩は私の親しい先輩の名を挙げて結婚しないんですかと訊く。しないよと私はこたえる。どうしてかみんなそう訊くんだけれど、私たちは同じ種類の仕事に就いて、職業上の友情で篤く結ばれているのですよ。結婚だなんて、そんな不純なことはしない。&lt;br/&gt;　説明しながら、先輩は無駄に整った顔をしているからいけない、と思う。菩薩像みたいな切れ長の目をして、薄い皮の一枚下に透ける骨のかたちがいいからいけない。それからきちんと職業を遂行していて、ある種の女たちにとっての「優良物件」だから、罪のない女の後輩が私の横を離れない。そんなことは私にはどうでもよくって、先輩はただ私の、だいじな仕事仲間だというのに。&lt;br/&gt;　後輩はけらけらと笑って、不穏できわめて魅力的な視線をもって私を走査し、サヤカさんたちは年をとりませんねと言う。私は会場全体をざらりと目で舐めて彼女を探す。まっすぐな髪の、全力で私をにらむ、人生の夏のさなかにいる彼女を。そんなことはないと私は言う。私はもうあんなに短いスカートを履くことができない。五百円の衣服で胸を張って世界に対峙することができない。あんなふうに、むきだしでいられない。私は、年をとった。&lt;br/&gt;　&lt;br/&gt; 　ビジネスバッグをクロークに預けることを忘れている気の利かない先輩のところに私は後輩を連れていく。後輩は小さい銀色のプラダのかばんをぎゅっと握りしめている。先輩は私の顔を見るなりあの書類、あれだけは〆切破られると困るんだと言う。八日までだからね。今日は三日だ。&lt;br/&gt;　はいはいと私はこたえて後輩を自分の前に誘導する。そうしながらあなたも変わらないという先の自分の社交語彙を思いかえす。あなたは若くてきれいだと私は言った。前者は嘘で、後者はほんとうだった。必死ですよ、と後輩はこたえた。うつくしかった。あんまりうつくしいので、先輩は恋愛をしませんと私は言うことができなかった。暑苦しい仕事仲間であるところの先輩と私は実にいろいろなことをたがいに知っていて、というのも私たちは仕事の奴隷で、そうしたほうが感情的な側面を忖度しやすくって仕事がうまく進むならなんだってシェアするからなんだけれども、いくらそれを知っていて昔すこし好きだった後輩が今日はうんときれいだからって、他人のセクシュアリティを軽々に口にするわけにはいかない。&lt;br/&gt;　そうでしょうと確認すると、金屏風の前でえらい人たちをしげしげと眺めていた彼女はちらりと私を振りかえり、しっかりとうなずいてみせる。私は安心して壁際のグラスをひとつ手に取る。にせものの春の花のにおいがする。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　やわらかな白いシャツの袖を絶妙な角度で巻いてそこだけが装飾的なピンクグレイのヴェストを羽織り、黒のパンツから白い踝を出したお河童の女がすうと近寄ってマキノさん、とささやく。&lt;br/&gt;　私はそのきわめて平均的な顔を覚えていなくって、それでもその低い声はなんだかゆかしいので、お久しぶりです、とお芝居をする。女はその芝居を許してやさしい笑いじわを見せてくれる。私はいっぺんにその人を好きになって、今はこんなところで働いていて、と言う。名刺を差しだすそのしぐさがどうでもいい人間たちにするのと同じ形式をなぞっていることに私は苛立ち、それみたことかとミニスカートの彼女が口をはさむ。私は彼女をにらんで、うるさい、と口の動きだけで言う。私はいまこの人を好きだと思ったんだから、すっかり忘れていたことなんか、どうだっていいじゃないか。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　えらい人たちのあいさつを聞いているふりをしながら視線だけで私は彼女を探す。入り口近くに並べられた椅子の上にだらしない格好で座って彼女は退屈している。私たちは記念写真を撮る。わざとらしい笑顔の大群。もう少し寄ってくださいとカメラマンが言い、私たちは肩を寄せあってきゃあきゃあ笑う。笑いながら正面を見ると彼女は椅子の上で立膝をついている。&lt;br/&gt;　そのかばん、きれいだね、と彼女は言う。私は自分の脇にはさんだクラッチバッグを心から誇りに思い、ありがとう、とこたえる。こないだ買ったんだ、働いて、それで買ったの。きれいでしょう。きれい、と彼女はもういちど言って、私たちはほほえみを交わす。&lt;br/&gt;　右肩から誰かの小さい声がする。見違えましたよ、美人になっちゃって。それが嘘だと私にはわかっている。あなたには彼女が見えないから、だからそんなことが言えるんだ。間の抜けたかけ声にあわせてシャッタを降ろそうとしているレンズではなく彼女にだけ、私は笑いかける。二十二歳の私が小さくさよならの手を振り、軽薄なカメラの軽薄なレンズが落ちる。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&amp;#8212;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44452977533</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44452977533</guid><pubDate>Sun, 03 Mar 2013 23:03:00 +0900</pubDate></item><item><title>　近ごろはエントリが長くなりすぎるのでふたつかみっつに割っています。割る作業もそんなに嫌いではない。インターネットで暇つぶしの文章を読む人に好まれるテーマというようなものが明確になるはたらきもある。でも...</title><description>&lt;p&gt;&lt;span&gt;　近ごろはエントリが長くなりすぎるのでふたつかみっつに割っています。割る作業もそんなに嫌いではない。インターネットで暇つぶしの文章を読む人に好まれるテーマというようなものが明確になるはたらきもある。でもそのプロセスでうしなわれているものもきっとあるのだろうと思う。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　私はもとよりテーマみたいなものにとくに興味がなくて、だからなけなしのそれを浮き彫りにすることもわりとどうでもいいんだけど、でも1900文字以内でおさまらないものをブログに出さないのは、たぶん読まれたいからなんだろうと思う。&lt;br/&gt;&lt;span&gt;　読まれなくても書くけどすこし読んでもらえたらもちろんうれしい。好まれなくてもぜんぜん生きちゃうけど好まれたらもっと生きる気になるみたいな。&lt;br/&gt;&lt;/span&gt;&lt;span&gt;　それはそれとして、興の乗るままだらだら書きたい気分もあります。というか書いてる。でも私の使える時間は他の人と同じように有限なので、そんなに書けない。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　&lt;a href="http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44062472276"&gt;さっきの&lt;/a&gt;みたいに、ひとつの身体的な苦痛について仔細に描写するのが好きで、それについて「変態だね」と軽蔑した口調で吐き捨てられたことがあり、そのせりふ自体は正しいのですが、軽蔑する必要はないと思う。私のほうがひとつよぶんに快楽を知っているのだから羨んだらいいと思う。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44062928334</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44062928334</guid><pubDate>Tue, 26 Feb 2013 23:45:43 +0900</pubDate></item><item><title>ホットミルクに関する九十九の仮説ーー『傘をひらいて、空を』「はちみつの灯りをともす」番外編</title><description>&lt;p&gt;　友人たちに引っ越しの知らせを出したら新居の最寄りの駅が通勤路の上だという返信があったので、久しぶりに飲もうかと、そういう話になった。私は振りかえって自分とほとんど同じ高さの視線をとらえ、このくらいの背丈の人だったろうかと思う。ところでどこが悪いのと訊ねる。胃、と彼は一文字で回答する。猫背、とつぶやくとそのために、と彼はつぶやきを返し、皮の剥けたくちびるでにっと笑ってみせた。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　胃が痛い、という物言いは彼にはクリシェでしかなかった。だからそれが、喉の下まで巻きこむ吐き気と、自覚なしに背を丸めさせる端的な痛みと、勤勉といっていいほどの持続性をそなえていることを自覚したときには、胃痛という語の内容がえらく豊かになった、と思った。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　それが訪れたのは遠方に住む妻が戻るのを見送った（夫妻それぞれの職業のもたらす別居には先が見えず、だから彼らは東京に一人前半の住居を獲得していた）、そのときのことだった。それは扉をひらくように礼儀正しく境界線をのりこえて彼の身体を訪れた。彼はめんくらったまま、吐き気との区別がつかなくなった眠気に巻かれた。そのふたつの近似性を彼はそれまで少しも知らなかった。興味もなかった。けれどもそれは今や彼自身の存在に明確にふくまれているのだった。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　翌朝、這うように出勤すると、彼の上司と同僚がそろってやってきて、いいから病院に行け、明日は休めと命令した。検査の結果は先になりますが、と医師は言った。見たところ荒れているほかに悪いところはありません。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　翌日は眠りのうちに過ぎた。彼はよく水を飲むたちで、けれどもそれさえほとんどしなかった。胎児の姿勢で、いい気持ちだと思った。眠っていたら、痛くないから、いい気持ちだ。彼の命題はただ痛みから逃れることだけだった。翌朝の通勤から彼は動作のひとつひとつについて検証をおこなった。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　空腹は痛みの隙間から顔を出す別の物質でできた針のように彼を苛み、彼は試行錯誤の末に摂取するものを決め、ちいさく丸まってそれらのもたらす重量をなだめた。早足をふくむ運動をつつしみ、浴槽に湯を張って胸から下をあたためた。その性質をよく理解し細心に機嫌をとってやると痛みは暴れず、しかし出てはいかなかった。彼はそのようにして彼の痛みとの同居をはじめた。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　病人は寝ていろという主旨の私の説教をいなして、今日のマキノの役割は、と彼は宣言する。俺がバーでホットミルクをのんでる理由についてお得意の妄想を繰りひろげてみせることだ。今のあなたとそっくりのことをする場面が私の好きな小説にあって、と私は話す。でもそれはアル中の話なのでたぶんちがう。ちがうよね？ちがうと彼はこたえる。こうなってからいろんなものにうっすら依存していることがわかって、たとえばコーヒー飲めないと苛々してそれからえらい落ちこむのな、情緒不安定になる。でもいくらなんでもコーヒーや酒が高じて胃がやられたとは思わない。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　内科のお医者も理由を見つけることができない、となると、あとは身体表現としての痛みですね。私は残り少なくなった、強いはちみつの匂いのする北欧のビールをすこしだけ飲む。たとえば、奥さんとの別居が耐えられなくって、でも理性ではしかたのないこととわかっているので、あなたの胃があなたの口のかわりにだだをこねている。彼は首をかしげて、そんなにいやでもない、とこたえる。そうかいと私は引き下がり、では仕事が実はつらい、と口にする。彼は首を横にふる。私は次々と仮説を繰りだす。トリガを引かれた古い傷、抑圧された強い恋、置き忘れたふりをしていた瑣末に見えてそうでない不快。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　彼はそのすべてを退け、愉快そうに笑う。よくネタが尽きないな。九十九の仮説を出してあげたっていいと私はこたえる。でもそろそろあなたの終電だからメタ的なやつを提供しよう。それはあなたの身体から届けられたメッセージなんだ。私たちは老いている。私たちは刻一刻と死に向かっている。でもふだんはそのことを忘れている。だからあなたの親切なからだがそれを教えてくれている。あなたがわからずやだから、それはとってもしつこくって、放っておいたらあなたの人生の一部になってしまう。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　いやだなあと彼は笑い、でも暫定的にそれを採用しよう、と言う。それで自分をいたわるということをやってみよう。私は満足して笑う。仮説は、と彼は改札を前にして言う。きっとマキノ自身についてのことなんだ。他者に関するすべての想像はわがことの仮定としてあらわれる。私が口を利けないでいると彼は猫背を向けたままてのひらを挙げて階段を降りていく。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&amp;#8212;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　腹痛の描写を執拗にしたくって、それで書いたのですが、おなか痛いので半分が終わるとなんか怒られそうなので書きなおして、そしたらおなか痛いのがあんまり書けなかったのでこっちに流します。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44062472276</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44062472276</guid><pubDate>Tue, 26 Feb 2013 23:33:08 +0900</pubDate></item><item><title>もうダメだおれはこれから海へ行くそしてカモメを見る人になる
&amp;#8212;
瀧音幸司
&amp;#8212;
男性のなにがうらやましいといって、二文字の一人称を容易に使えるところです。「わたし」よりすぱっと切れ...</title><description>&lt;p&gt;もうダメだおれはこれから海へ行くそしてカモメを見る人になる&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&amp;#8212;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;瀧音幸司&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&amp;#8212;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;男性のなにがうらやましいといって、二文字の一人称を容易に使えるところです。「わたし」よりすぱっと切れがいい響きがつくれるし、第一「わたし」だってばんばん使えるんだから。男の人はずるいなあ。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44059945328</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44059945328</guid><pubDate>Tue, 26 Feb 2013 22:15:55 +0900</pubDate></item><item><title>「私はいつかきっと面と向かって言ってしまうだろう。あなたは私に対して機能しなくなることを想像して怯えているのですごくかわいくって、私はあなたに対して持っている感情的権力にだいぶ酔っていて、そのためにあな...</title><description>&lt;p&gt;「私はいつかきっと面と向かって言ってしまうだろう。あなたは私に対して機能しなくなることを想像して怯えているのですごくかわいくって、私はあなたに対して持っている感情的権力にだいぶ酔っていて、そのためにあなたを野放図に甘やかすことを娯楽としているんだと。私にとってのあなたの価値はほとんどそれに尽きるといってもいいくらいだと。あなたの聡明さ、あなたの美しさ、あなたの心遣いを、私が愛したのだと、あなたは思っているかもしれないけれども、私はそんなの、たいして好きじゃなかった。私はただあなたが、野良犬みたいでかわいいと思って、好きなだけ撫でまわしてかまわないから、だから好きだったのだ」&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44059939955</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/44059939955</guid><pubDate>Tue, 26 Feb 2013 22:15:44 +0900</pubDate></item><item><title>　気がついたら奥歯を噛みしめていて、ずっとそうしていて、僕は、幸福で、満ち足りていて、でも、ぱきりとそれが割れて、痛い、それが少し、いやだった。ストレスはありませんかと医者はたずねた。そんなものは生きて...</title><description>&lt;p&gt;&lt;span&gt;　気がついたら奥歯を噛みしめていて、ずっとそうしていて、僕は、幸福で、満ち足りていて、でも、ぱきりとそれが割れて、痛い、それが少し、いやだった。ストレスはありませんかと医者はたずねた。そんなものは生きていれば誰にだってある。人生は端的な苦痛の連続だ。そう思いながら僕は感じがいいとみんなに言われるほほえみを浮かべてそこに少量の困惑を加える。ここでは僕は患者、ペイシェント、だから痛む者という語義にふさわしい顔になる。少ないほうだとは思いますが、ええ、でも、わりに忙しいので、それは少し、ストレスかもしれませんね。じゅうぶんな休養を取るようにと医者は言う。何も言わないような男だと僕は思う。そんなのは珍しいものではない。どいつもこいつも口を利く、僕も利く、でも僕らはおおむね、なにも言っていない。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/43986598177</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/43986598177</guid><pubDate>Tue, 26 Feb 2013 00:51:07 +0900</pubDate></item><item><title>　カレンダーでは休日にあたる日に比較的短時間で終わる仕事をして、それにまつわる社交を済ませ、それ以上のことをする欲望を自分に禁じて、コーヒーを飲もうと思う。夜の夜中で、繁華街のはずれで、だから二十四時間...</title><description>&lt;p&gt;　カレンダーでは休日にあたる日に比較的短時間で終わる仕事をして、それにまつわる社交を済ませ、それ以上のことをする欲望を自分に禁じて、コーヒーを飲もうと思う。夜の夜中で、繁華街のはずれで、だから二十四時間営業のファーストフードのあかりを私は見つける。&lt;br/&gt;　ちいさなコインひとつでコーヒー&lt;span&gt;に似た液体をもらって、なにもかもがプラスティックでできているような建物の階段を上がり、私は動けなくなる。人々がいっせいに私を見て、それから目をそらす。ぬるく乾いた空気。淀んだ皮脂のにおい。こびりついた排気のにおい。空調に宿命的に貼りついた黴のにおい。誰かの大きな荷物。ある種の洗練を感じさせる儀礼的な無関心と脊髄の神経に直接届く他者の幾重にも重なったさまざまな種類の疲労。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　彼らはここで夜を明かす。ここは彼らのための場所だった。なぜあなたに部屋があるのか。なぜあたたかな寝床といつでもお湯の出るシャワーがあるのか。あなたはなぜ朝になれば疑問もなくそこから這いずり出て清潔な身支度をしてあなたにしかできないわけでもないぬるま湯みたいな仕事でもって賃金をもらっていられるのか。なぜ私ではなく、あなたが、それを与えられているのか。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;&lt;span&gt;　彼らはそんなことを問わない。もちろん。私はただ深々と頭を下げて非礼を詫び、そこを去る。私はそれを騙し取ったのですと言う。私をはそれを詐取し、朝にシャワーを浴び、夜に布団にもぐって、のうのうと暮らしています。それでなにが悪いのか。開きなおりながら私は自分が石を投げられるべきだと思っている。でも誰もそんなことはしない。そんな慈悲深いことはしない。私は背を丸め、あくまで私のものでしかない孤独な架空の石が私の背を切り裂くのを待つ。&lt;/span&gt;&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42847899844</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42847899844</guid><pubDate>Tue, 12 Feb 2013 01:31:37 +0900</pubDate></item><item><title>　そのせりふに私はみっともなく赤面し、そうしてつめたい頭の裏側で、恥のようなものも熱のようなものも、ただの技術でもって引き起こすことができるのだ、と思う。</title><description>&lt;p&gt;　そのせりふに私はみっともなく赤面し、そうしてつめたい頭の裏側で、恥のようなものも熱のようなものも、ただの技術でもって引き起こすことができるのだ、と思う。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42663508201</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42663508201</guid><pubDate>Sat, 09 Feb 2013 23:13:10 +0900</pubDate></item><item><title>夜の九時から本を読んでいることが怖い。</title><description>&lt;p&gt;夜の九時から本を読んでいることが怖い。&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42503460957</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42503460957</guid><pubDate>Thu, 07 Feb 2013 23:10:41 +0900</pubDate></item><item><title>母親と一緒に住んでいたとき、テレザは強制収容所のなかで暮らしていた。それ以来彼女は知っている、強制収容所とはなんら例外的なものでも、ひとを驚かせるものでもなく、なにか所与の、根源的なもの、この世に生を享...</title><description>&lt;p&gt;母親と一緒に住んでいたとき、テレザは強制収容所のなかで暮らしていた。それ以来彼女は知っている、強制収容所とはなんら例外的なものでも、ひとを驚かせるものでもなく、なにか所与の、根源的なもの、この世に生を享けた者が、全身を極度に集中することによってしか、逃れられないものなのだと。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&amp;#8212;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』&lt;/p&gt;</description><link>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42501197547</link><guid>http://seepassyouagain.tumblr.com/post/42501197547</guid><pubDate>Thu, 07 Feb 2013 22:01:13 +0900</pubDate></item></channel></rss>
