深夜に帰宅して大量の玉葱を刻み半房のにんにくを包丁の背で潰しうちでいちばん大きい鍋にオリーブオイルと一緒に入れて揚げ焼きにする。玉葱を加える。焦げる寸前でかき回しながらセロリを刻み鍋に追加する。牛ひき肉に塩を振りその上でペッパーミルをごりごり回す。鍋をかき回す。にんじんをすりおろして追加する。鍋をかき回して牛ひき肉を加える。鍋を底からかき回してワインを瓶の半分入れてしまう。セロリの残りをぼりぼり噛んでグラスにワインの残りをどぼどぼ注いでビールみたいに飲む。あと口がずいぶん尖っているけれども口に入れた直後の香りは悪くない。醤油を何滴か落とす。台所の小引き出しをかき回してローリエをひっぱりだす。賞味期限を確かめてからローリエを一枚鍋に入れる。鍋をかき回す。トマト缶をふたつぶん加える。残ったセロリに塩をひとふりして噛む。ワインを飲む。鍋を底からひっくり返すみたいにかき混ぜる。残ったにんじんに塩をひとふりして噛む。ワインを飲む。鍋をかき回す。にんじんの残りを噛む。ワインはもうない。
私はほんとうはもう深夜に帰宅しなくてもいい。私はもう十八時に帰ったってかまわない。私はばかみたいに働いていて使い潰されると思っていた。そういうのが少しだけ愉快だった。とてもイレギュラーなことで、あなたにしかできないので、頼ってしまって、申し訳ない、とえらい人たちは言った。いえいえと言って私はいい顔で笑った。私は愉快だった。私は自由な時間は寝る時間しかなくて愉快だった。私は自分をそういうものだと思うとずいぶんと落ち着く。同世代ばかりの忘年会で仲間たちが口々にひどいひどいと言って寄ってたかってなぐさめるので私は泣いた。彼らは憤りまったくひどいと言い募った。ごめんなさい疲れてちょっと泣きましたと言うと彼らはひどくやさしい顔でたくさん泣くといいですみんなわかってますからと言った。得意そうだった。何をわかっているんだろうと私は思った。私は化粧直しをしていい顔で笑った。彼らも笑った。
でもそれは終わった。ありがとうございましたとえらい人たちは言った。くびになるのですかともう少しで聞くところだった。彼らはその事情についてしきりと言い訳をし私の仕事を褒め昇任の話をした。私はあいまいに笑った。私はたのしくなかった。私は化粧を直したばかりの顔で笑った。彼らも笑った。
鍋の火を消す。この一週間で先周りをしたから半月先まで余裕ができた。趣味のワークショップの教材をつくろう。そんなの誰がやるんだか知らないけど(やるって言う人たちとごはんを食べたけれど私はそのことがいまだによくわからない。あの人たちはやさしそうだった。インターネットの人たち)、とにかく作ろう。それから旅行の話の続きを書こう。そう思う。