January 2012
12 posts
過去は血のように生々しく戻ってくる。
—
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「悲しみ」
こうやって私はおはなしをすることを学ぶ。
—
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」
これは会話だたろうか?それともおはなしだったか?
—
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」
腰抜けになってるときに話すのは嘘。でもよかれと思って話すのはおはなしさ。
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」
それでもあなたがわかってくれないので、私は言った、嘘ついてよ、いいから嘘ついてよ、と、するとあなたは嘘をついてくれた。
—
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「愛の詩」
安全のために、私たちはあなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに同意した。
—
レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』表題作
深夜に帰宅して冷凍してあったまともなパンを焼き、チーズを載せて裏を焼き、作り置きのサラダとスープを添えて食べる。食後にハーブティを淹れようとするとカモミールが切れているのでいいかげんな紅茶の入った三角形の小さな袋に熱湯を注いで飲む。五分で胃が反乱を起こし私はユニットバスに逃げこんで吐く。床が冷たいので居室に這い戻る。三日前から積んだままの洗濯物のなかに崩れる。少しあたたかい。
五十分で起き上がり紅茶がいけないのだと思う。何年か前にもときどき貧血を起こしてそれはみんな紅茶のせいだった。
コーヒーを飲みたいと思う。吐き気は親しい友だちのように私のそばにいる。レベッカ・ブラウンの犬みたいに。
右の側頭部が痛んでもうすぐ七十時間になる。
いつもより早めに帰宅してにんじんを乱切りに、玉葱を薄切りにしてオリーブオイルで軽く炒め、少量の水とコンソメスープの素を入れて蒸し煮にする。水と賞味期限ぎりぎりの牛乳を加えてフードプロセッサにかける。鍋に戻してあたためる。きゃべつとにんじんを小さく刻んで薄い塩で揉んで少しだけ置いて水洗いして絞る。スイートコーンの缶をあけて加え、小さいマヨネーズの封を切って黒胡椒を挽いて和える。サラダもスープもずいぶんとたくさんあるように見える。それぞれをてのひらにおさまる鉢に盛り残りを冷蔵庫に仕舞う。何をしているんだろうと思う。明日明後日と出張でその次の日には鍋の約束があるのに私はいつこんなものを食べる気でいるのだろうと思う。
...
閉店近くまで飲んでいたら最寄り駅までの電車がなくなっていたので別の駅から三十五分歩くことにする。深夜の繁華街の人を眺めて少ないねと友だちが言う。地震のあとに人が減って戻りきらないみたいだねと私はこたえる。でもこれだけの人がいて真夜中までいいだけ飲めるんだから豊かなんだよ、きっと。...
インターネットには呪いのことばが散在していて、ときどき私にも届く。
このあいだ届いた文章に心を惹かれたので残しておく。公開されていた記事はもう消されて、キャッシュしかない。
”...
「自己満足」という非難を受け取るたびに、自己満足とはなんだろうと思う。私は他者を満足させることを望むけれども、それは大勢の他者のごく一部を偶発的に満足させることができればうれしいという、淡い願望にすぎない。
自己満足を非難する人は、世界中の人を満足させろと要求しているのではないと思う。ただ自分を満足させろと要求しているのだと思う。非難された側が匿名の誰かを確実に満足させるには世界中の人を満足させるしかないと推測することはない。自分が特別で、自分の脳を少しでも働かせたものが自分を満足させるのは当然だと考えているからだ。あるいは自分がさまざまな他者の満足度を知り、不足があれば断罪すべき立場にあると考えているからだ。ほかに解釈を思いつかない。
...
小さな犬を救えなかった話 →
December 2011
9 posts
一人に「死ね」って言われるのが待ち針の先で刺されるくらいだとして、同じせりふを百万人から合唱されたら、致死量かな。
私は過度に倫理的であり、過度に他人を尊重する。それによって安定している。私の持つ倫理は、根拠のない出来合いの規則である。根拠があると、根拠の根拠が欲しくなる。その誘惑から逃れるには、無根拠な調教を自分に施すしかなかった。感情が過剰なのだ。
自分を幾重にも縛らないと、私はどこかへ落ちてしまう。あるいは、拡散して消えてしまう。
文体は小説にとっての声と容姿だ。どれだけ中身がひどくても、それが美しいだけで最後までつきあってしまう。
私やさしくできないのに、なにもできないのに、あの人は勝手に与えてばっかりだ。犬でも飼うみたいに飼えると思ってるんだ。それで私が平気だと思ってる。もらってばかりで、頭撫でられて、それでいい気になれると思ってる。
(N.R.のメールより)
彼の快活さはときどき、化粧室の芳香剤みたいに思える。
郊外のシネマコンプレックスは馬鹿馬鹿しいほど大きくて、アメリカンだなあ、と何度でも思う。
大きくて変に無神経で簡単に人をつかまえるものが、私にとってのアメリカンだ。実在のUSAとはほとんど関係ない。不健康なほど清潔な、剥がしたくなるほどにこやかな、痛々しいほど均質な。そういうもの。
自我を保つなんてもの凄く面倒なことだから、誰かに丸投げしたくなる。 それを表面化させることを「甘え」って言う。自分のために何かしろという要求なんかじゃなくて。
だからこそ私たちは自分と似ていて、しかも自分を補うような相手を求める。かつて人間は二人でひとつの丸い生き物だった、というファンタジィを語る。あなたはわたし。わたしはあなた。
なんで女の子にするわけと彼は言う。私は少し驚いて、読んでるんだ、と言う。彼は不愉快そうに眉を歪めて、それがなにか、と訊く。うれしいと私はこたえる。読まれるのって好きだよ。リアル知りあいの人々には槙野さんのブログあんまり評判よくないから、余計にうれしいな。 俺の評判もよくない、と彼は言う。あらまあと私はつぶやく。それは残念。いやなら消します。あなたの言動を切り貼りしたエントリは全部消去してもいい。私がそのように提案すると彼は鼻で笑いばかみたいな量のコピーが発生してるのにオリジナルに意味なんかないと言う。私は少し笑う。ごめんなさいね。インターネットのせいなの。考えなしに浅はかにインターネットを使ったせいなの。情報化社会っておそろしいですね。
...
憎悪の発見
「傘をひらいて、空を」『憎しみを捨てる』第一稿。陰惨すぎるので語り手を「彼」から「上司」に改稿しました。そしたら一行も残らなかった。
—
同期の青木が書類を持って彼の横を通りすぎようとした。そういえばもう青木ではないはずだった。彼はデスクの上の厚いファイルを両手でつかみ彼女の頭を横ざまに薙いだ。鈍い音がした。文房具もそれなりに凶悪な使いかたができる、と彼は思った。彼女は消えた。彼は安らかな気持ちになり、作業に戻った。スマートフォンが会議十五分前のアラームを鳴らした。
彼はアラームを止めて上半身を起こす。会社にいるのではなかった。起床して支度をするところだった。彼はファイルについて考えた。それはたしかに彼のデスクにあった。出社したらしまっておこうと彼は思った。気に障る夢だ。
...
November 2011
16 posts
ああもし自分が高校生の男の子でこんな人を好きになってしまったら大変なことだ
– http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20111130/p1
帰宅して大根を剥き下茹でしながら烏賊を輪切りにしていると二年前に何度か食事を断った人からFacebookアカウントに申請が来る。
私はそのサービスをほとんど使っていない。何人かから使わないのに文句を言われてかたちだけ登録している。申請がいくつかそのままになっている。 ソーシャルメディアは嫌いだ。それが出現したころから嫌いだ。私はインターネットの書きちらかせるところが好きでみんなみたいに他人のこと考えてない。他人のこと考えるなら目の前にいてくれなくっちゃいやだ。会って話してよ、関係ってそれしかないよ、メールは嘘、電話は嘘、インターネットはもっと嘘。インターネットにあるのはぜんぶ、コンテンツだ。人はいない。私もいない。文字列。私はそれが好きだ。
会って話したくない人の申請は削除する。それはフィクションだ。だから削除できる。下品なくらい濃い鰹だしと醤油と少しの砂糖と酒で大根と烏賊を煮る。
閉じこめられて退屈すると会話は次第にその浮力を増す。抽象は退屈の治癒に高い効力を発揮する。
この祝日は遠いところに行って帰ってきた。同行の人たちと延々と話して、tumblrに流すのは独立した匿名性への欲望、署名してブログに書くのは第二のアイデンティティへの欲望、という結論が出た。常用するWebサービスを白状したのはもちろん私だけではなかった。ニコニコ動画は他者と融合した匿名性への欲望(別名ライトな赤い海)、Facebookは第一のアイデンティティへの不安と補強、twitterは断片化への欲望。
「彼らは私たちによくしてくれる。猿を大切にする猿回しみたいに。」
もちろん、これは冗談ですよ。愉快な冗談です。だからやってみてください。
– http://theinterviews.jp/kasa_sora/2269245
深夜に帰宅して鶏もも肉で出汁を引く。みりんを煮切って醤油を加え、鶏出汁を注ぐ。うどん、根のところを拍子木に切った白菜、石づきを取っただけの生椎茸、斜め切りの葱の順に煮ながら加える。鍋にできた層と位置関係をそのまま保つようにそっと丼に移す。七味唐辛子を少しだけ振る。
知らない人のブログを熱心に読んでいたら非公開になった。新しい記事もすぐに非公開になるらしかった。RSSリーダがあるからかまわないと思った。彼女の書くものをどうして熱心に読むのかわからない。わからなくてかまわないと思う。言葉遣いのいい人だけれど、たぶんそれだけではないと思う。 私には覗き趣味があるのだろうと思う。誰かを見たいのだ。盗むように観察したい。
久しぶりにTwitterのfollowerを見たら件のブログを書いている人が少し前に私のアカウントをfollowしていた。...
2011年11月14日
十九時に退勤して美容院を経由して二十三時に帰宅し、えぼ鯛の干物を焼く。ブロッコリーをレンジで加熱し粗熱をとって小房に切り鰹節とぽん酢で和える。ごま油で葱と生姜を熱し、しめじと少量の挽肉を炒め、白だしと少量の砂糖、水を加え、片栗粉でとろみをつけて、レンジであたためた豆腐にかける。なめこはざっと湯がいて味噌汁に仕立て葱を散らす。
三ヶ月ぶりなので担当の美容師はいささか恨みがましく、まだそんなに崩れてませんね、僕がカットしたからですかね、でももっと早く来てくれてもいいですよ、という。仕事がどうもひどくてと私はこたえる。昨日は暇だったんですが寝て過ごしました。
そりゃ寝るほうがだいじですと彼は言う。髪の毛なんか寝たあとでいいです。あんまり崩れると社会的にあれですけどこれくらいの長さがあればアップにできるし、そしたら半年くらいアップで生きていってもぜんぜんいいと思います。髪なん...
2011年11月13日
二時から十三時まで眠る。小一時間置いてさらに十八時まで眠る。仰向けのまま内臓の状態を探る。喉の乾きは思ったほどではなく、空腹というより胃の中が引き攣れているような感覚がある。
白湯を飲む。それから煎茶を飲む。胃腸に何がほしいと訊くと出汁という。出汁かスープ、米、あとなんか酸っぱいの、という。 フライパンにオリーブオイルを熱し、粗みじんのにんにくひとかけ、みじん切りの玉葱、冷凍庫に残っていたシーフードミックス、生米の順に入れて炒める。トマト缶とコンソメスープで炊く。パルメザンチーズを散らして食べる。
毎日深夜に帰宅していたからといって睡眠時間が足りなかったのではない。六時間は死守していたし八時間眠る日もけっこうあった。出勤するときに二食分を入手し夕方に作業しながら食事(というか、感覚的には、餌)をとれば帰って三十分で眠れる。 ...
いまではだいぶ薄れましたが、かつて俺は、おもちゃ屋の店頭なんかによくある、電池で動く、太鼓をたたく人形やぬいぐるみを見ると、ほぼ自動的に涙が出て、異常な量の感情...
– http://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/20100319/1268936388
手をつないで歌いながら歩き駅前で突然しらじらしくフォーマルなあいさつをして深夜に自宅に戻る。
私たちは十日前に突然申し入れられた仕事をしかるべき書類にまとめて出してえらい人たちにずいぶんと持ち上げられて解放されて、急いでお酒のあるところに行って、帰れる限界まで飲んだ。飲める時間は四十分しかなかった。私たちはくたびれた三十女ふたりで、それで、得意満面だった。私たちはその緊急の業務とは別の、年に一度かそこいらの大切な仕事をそれぞれクリアしながら、めちゃくちゃな量の作業を遂行し、求められた以上のかたちにした。私たちは手をつないで歩いた。駅前まで。
女の人はいいな、と思う。女の人のほうが、そうでない人よりも好きだ。
...
週末の自己紹介
週末がおとずれると、彼らは相互に自己紹介をする。彼らは話をして食事をして一緒に寝て起きてまた話をする。夕方の話は社会的で夜の話はあまり話ではなくて、朝は自己紹介をする。たとえば彼は羽根布団の裾から出た彼女のつま先をながめる。中指がいちばん長いと彼は言う。僕のとちがう。
彼らはあらためてたがいの足について紹介する。たとえば甲高で幅がやや狭くて小指の爪がほとんどない、というようなことを。それから横たわったまま自分の足で相手の足をなでる。指のおもて、指の裏、土踏まず、足の甲、の、二人ぶん。それらの湿度は異なり、それらの温度は異なり、彼らは、それを覚える。
彼らはてのひらで相手の腕や背中を走査する。彼らの視界は彼らの身体に遮られて触覚を強化している。これはなに。それは先週ひっかいた傷。これは。小さいときにやけどした跡。これは傷。ううん、それはほくろだよ。立体的でじっと見ると気持ち悪いよ。なんかね、動...
更新は途切れ私はそのアカウントのことを忘れる。
— 【定番妄想記録】
すべてのアカウントにログインすることができない。 しかたがないのでみんな捨てる。最初からお金を払っていない。誰からもお金をもらっていない。だからだいじょうぶだ。 誰かが私のアカウントで記事を書いている。私はそれを読む。悪くないと思う。来週の更新を楽しみにしている。私のものだったはずのメールアドレスにはきっと私の知らない人からの美しいメールが届いていて私の知らない人がそれを読んでいる。
—
【定番妄想記録】
一円玉を鼻の穴に入れるべきか否か迷っている。 二十四時を過ぎて帰ると近所のスーパーマーケットで食材を買うことができない。コンビニエンスストアで薄いプラスティックの容器に入ったロースかつ丼を買う。全国チェーンのコンビニエンスストアの制服を纏った美しいおばあさんが実に優雅な調子であたためますかというのを丁重に辞退して帰宅する。自宅の台所であたためているあいだに残っていたきゃべつをざくざく刻んでかつ丼に加える。生のきゃべつは芯に近いところを噛みしめると辛子に似た香りが少しだけする。...
2011年10月31日
昼休みにHちゃんからメール。お芝居のチケットを買った日に仕事を入れられたのでもらってくれないかという。その日は私も仕事だと返信する。互いが人としてまともな生活ができていると感じるぎりぎりのラインにいることについて合意する。それから、二十歳の私にチケットをあげられたらどんなにかいいだろうと思う。コンサートもお芝居もみんな高価できらきらしていた。きれいに見えるような格好をして待ち合わせをして特別な日みたいだった。でも彼女にチケットを手渡しに行くことができても彼女は私を嫌うだろう。彼女が嫌うさまざまな要素を私は許容し彼女の嫌いな類の安定を私は得ている。Hちゃんは私より七つ年嵩で、だから私がそういう話をすると、さっちゃんはまだ子どもね、と言う。
October 2011
8 posts
歯車が見える。歯車を見る。歯車は心臓のように動いている。
歯車を裏返す
– see/pass you again: (via taizooo)
—
@taizoooさんはいつも文中でいちばんカロリーが高いところだけ切って持っていく。
真っ暗闇だけれど奇妙に快適な小部屋に閉じ込められているので、暇つぶしにほかの小部屋の人たちと話をしている。
小部屋はまるで自宅のようだけれど、出られない。何も見えないけれども、それがいくつか並んで円筒形に配置されており、小窓から数人の声の届くことを、あらかじめ知っている。 私たちは危機感も希望も持っていなくて、ただ退屈だ。相手のことはろくに知らなくて、だから会話なんか続かない。 それで、知っている物語を順番に話すことにする。あらすじだけ、あるいは切りとられた場面の、またはひどく歪められた、小説や映画の断片が、いくつかの声で、延々と語られる。
— 【定番妄想記録】
夜中に帰宅して小松菜を湯がく。 茄子は電子レンジで蒸す。湯が再沸騰したら小松菜を笊に取る。山芋とエリンギを短冊に切る。茄子にチューブの生姜を少し落とし、ぽん酢をかける。小松菜を適当に切り、白だしに水を加えたものに浸ける。フライパンを熱し、冷凍してあったちりめんじゃこを軽く炒り、取りだす。熱いまま軽く拭いてふたたび火にかけてバターを熱し、山芋とエリンギを焼いて、醤油を回しがけ焦がしつける。小松菜は軽くだしを切ってちりめんじゃこを散らす。食卓にちまちまと小鉢を並べてハートランドの栓をあける。
...
深夜に帰宅し即座に玉葱を刻む。 茄子を乱暴に切る。いちばん大きな鍋に刻んだにんにくと生姜をひとかけずつ入れ、オリーブオイルを入れて加熱する。刻んだ玉葱を投入ししばらく炒める。多めの挽肉、茄子、トマト缶、ワインの順に追加する。ひたすら炒める。水を入れて煮込む。居室に戻る。腕時計をつけたままであることに気づく。外す。文字盤の裏側はガラス張りで歯車が見える。歯車を見る。歯車は心臓のように動いている。 慌てて台所に戻ると鍋底が焦げる直前まで煮立っている。かき回す。規定量の半分のカレールー、規定量の半分のカレー粉を入れる。小麦粉を炒めるのは面倒だけれども、全量カレールーにすると胃がもたれる。そう思う。空腹ではない。あるいは空腹かもしれない。少なくとも満腹ではない。心臓のような歯車を裏返すと文字盤は午前一時を指している。
...
2011年10月26日
給湯室で半ば放心しながらポットに湯を入れているとYさんが通りかかってさわやかにはははと笑い、槙野さんどうしていつも電気つけないのと言って給湯室の灯りをつける。私はあいまいに笑いいつも忘れるのですとこたえ、半身を引いたことがばれないようにもう少し大きく笑う。 Yさんは常時さわやかで誰にでも親切だ。近くのコンビニでおばあさんのためにドアを開けてあげているのを見たこともある。仕事もたいへんできる。なんでも裕福なおうちで育った帰国子女で三ヶ国語を話すことができるのだそうだ。そんなだから、Yさんを悪く言う人はいない。 Yさんのさわやかな笑顔をはじめて見た瞬間、映画とかだとこういう人が実は連続殺人犯だったりするんだよね、と思った。もちろん冗談だった。私の内面の冗談。...
see/pass you again:... →
yuasa:
seepassyouagain:
週末は自宅で仕事をしていた。
2011年10月22日
13時47分
四分の一で売っていた白菜の内側を切りとり、油を使わずテフロン鍋でじっくりと焼く。エリンギとトマトはそれぞれさっと焼く。バルサミコと塩で調味し、バターを添えた厚切りのバゲットとともに食べ、悪魔のように濃いコーヒーを飲む。 食べたあとは仕事をする。ふだんは持ち帰らないけれども、今はやむを得ない。集中するためにiPhoneとWiMAXの電源を落とす。
16時13分
明日も自宅にこもって働くことに決めているので、不在票二枚分の再配達をお願いする。 …
なにこれもっと読みたい
週末なのに仕事ばかりしていて肩が凝り、ほぐすために書いたものです。岸本佐知子がmonkey...
週末は自宅で仕事をしていた。
2011年10月22日
13時47分
四分の一で売っていた白菜の内側を切りとり、油を使わずテフロン鍋でじっくりと焼く。エリンギとトマトはそれぞれさっと焼く。バルサミコと塩で調味し、バターを添えた厚切りのバゲットとともに食べ、悪魔のように濃いコーヒーを飲む。 食べたあとは仕事をする。ふだんは持ち帰らないけれども、今はやむを得ない。集中するためにiPhoneとWiMAXの電源を落とす。
16時13分
明日も自宅にこもって働くことに決めているので、不在票二枚分の再配達をお願いする。...
どうもぼんやりして、なんでも忘れてしまうものですから、不便でいけません。親しい人の顔をね、別れていくらかすると、もうわからないんですよ、薄情なのでしょうか。
私がそう言うと彼は自分のこめかみを指先で軽くたたいて、僕の書いたものを読んでくれましたかと訊いた。拝読しましたと私はこたえた。
彼はぼんやりして近所のスーパーマーケットで妻に頼まれていたしいたけとバターと食器洗い用の洗剤を探していて、かばんの口が開いていることを人に注意された。帰ると妻があなた今日はかばんの口を開けたままにしていたでしょうと言う。よく知っているねえと言って彼が彼の古い革のかばんを撫でると(その口はすでに閉じられていた)、妻は笑いころげて、誰かに言われたでしょうと言う。うんスーパーマーケットでねえと彼が一部始終を説明すると彼女はいっそう笑って、それ、私、と言った。
彼はそのことを書いた。私はそれを読んだ。
...
August 2011
6 posts
肋骨を外して削いで食べましょう 鶏がらスープ程度の凶暴
私は何を詐取したか(『傘をひらいて、空を』番外編。疑問を残したエントリへの暫定回答。)
そんなのもわかんないのう、と彼女は言った。目の焦点が少しぶれている。酔ってきたのか、眠いのか。 彼が彼女との宴に私を呼んだ理由は実に単純で、彼は翌朝から出張なので帰宅する必要があり、彼女は半月の非人間的な労働の日々(写真家の労働の内実が私にはうまく想像できないけれども)を終えて朝まで飲まなければ気が済まず、だから誰かが無聊をなぐさめる必要がある、というわけだった。 シェヘラザード。彼は言った。王は退屈しておられる。何か話をしろ。うそ日記の朗読でもいい。 言うだけ言って彼は去り、だから私は彼の王と少し話をした。私だって退屈で、よく働いたあとなのに誰と何をする予定もなく、だから私のシェヘラザードを必要としていた。私たちには野蛮な王さまと違ってその役回りを適宜交代するだけの近代的な知恵がある。...
彼は私のことをただの女の子らしい女の子、受容器的封筒的女の子だと思っていて、
— エイミー・ベンダー、菅啓次郎訳『燃えるスカートの少女』「この娘をやっちゃえ」
私が開けてあげる。
あなたの膝には贈り物が載っていてそれはきれいに包んである、あなたのお誕生日ではないのに。とてもいい気分、あなたが生きていることを誰かがちゃんと知っているという気になる、でも爆弾かもしれないから怖いとも思う、あなたは自分のことを爆弾をうけとるほどの重要人物だと考えているので。
— エイミー・ベンダー、菅啓次郎訳『燃えるスカートの少女』「ボウル」
人間だった彼を見た最後の日、彼はさびしいと思っていた。 珍しいことではなかった。彼はいつだって世界はさびしいと思っていた。それが私が彼を愛していた大きな理由だった。私たちは一緒にすわり、さびしくなり、なぜこんなにさびしいんだろうと考え、ときにはさびしさについて議論した。
—
エイミー・ベンダー、菅啓次郎訳『燃えるスカートの少女』「思い出す人」