see/pass you again

Jan 30

アア、飛んだ長話を致しました。併し、あなたは分かって下さいましたでしょうね。外の人達の様に、私を気違いだとはおっしゃいませんでしょうね。アア、それで私も話甲斐があったと申すものですよ。

小川洋子編『小川洋子の偏愛短篇箱』江戸川乱歩「押し絵と旅する男」


もう逃げられない。あの大勢の人の群は、皆私の口から一言の予言を聞く為に、ああして私に近づいて来るのだ。もし私が件でありながら、何も予言しないと知ったら、彼等はどんなに怒り出すだろう。

小川洋子編『小川洋子の偏愛短篇箱』内田百閒「件」


Jan 26

過去は血のように生々しく戻ってくる。


レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「悲しみ」


こうやって私はおはなしをすることを学ぶ。


レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」


これは会話だたろうか?それともおはなしだったか?


レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」


腰抜けになってるときに話すのは嘘。でもよかれと思って話すのはおはなしさ。

レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「よき友」


それでもあなたがわかってくれないので、私は言った、嘘ついてよ、いいから嘘ついてよ、と、するとあなたは嘘をついてくれた。

レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』「愛の詩」


安全のために、私たちはあなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに同意した。


レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』表題作


Jan 22

深夜に帰宅して冷凍してあったまともなパンを焼き、チーズを載せて裏を焼き、作り置きのサラダとスープを添えて食べる。食後にハーブティを淹れようとするとカモミールが切れているのでいいかげんな紅茶の入った三角形の小さな袋に熱湯を注いで飲む。五分で胃が反乱を起こし私はユニットバスに逃げこんで吐く。床が冷たいので居室に這い戻る。三日前から積んだままの洗濯物のなかに崩れる。少しあたたかい。

五十分で起き上がり紅茶がいけないのだと思う。何年か前にもときどき貧血を起こしてそれはみんな紅茶のせいだった。
コーヒーを飲みたいと思う。吐き気は親しい友だちのように私のそばにいる。レベッカ・ブラウンの犬みたいに。


Jan 19

右の側頭部が痛んでもうすぐ七十時間になる。

いつもより早めに帰宅してにんじんを乱切りに、玉葱を薄切りにしてオリーブオイルで軽く炒め、少量の水とコンソメスープの素を入れて蒸し煮にする。水と賞味期限ぎりぎりの牛乳を加えてフードプロセッサにかける。鍋に戻してあたためる。きゃべつとにんじんを小さく刻んで薄い塩で揉んで少しだけ置いて水洗いして絞る。スイートコーンの缶をあけて加え、小さいマヨネーズの封を切って黒胡椒を挽いて和える。サラダもスープもずいぶんとたくさんあるように見える。それぞれをてのひらにおさまる鉢に盛り残りを冷蔵庫に仕舞う。何をしているんだろうと思う。明日明後日と出張でその次の日には鍋の約束があるのに私はいつこんなものを食べる気でいるのだろうと思う。

サラダを噛むとこめかみに響く。動くと耳の奥から鼻梁にそれが流れる。断続的に続いているのではない。ずっと続いている。夢もうつつもずっと、少し、痛い。
頭の右側に悪いかたまりがあるところを想像する。それから腫瘍のある人々からの非難を想像する。Googleに偏頭痛について質問する。首を傾ける。二十歳のころから「いつか頭がもげる」と言われつづけた音が今日はことのほか大きい。頭がもげるところを想像する。頭がもげた人からの非難を想像する。うっかり首を曲げてごとりとそれが落ちてしまった人々について。

がまんできる程度の痛みなので腰痛用のロキソニンは服んでいない。腰痛はつらい。私の腰椎はときどきずれる。あれはとても痛い。椎間板ヘルニアが狼なら今の頭痛は白くってふわふわした毛足の長い子猫ちゃんだ。

病院に行こうかと思わないのではなかった。でも休みをとるのが少しいやだった。ただでさえ先週から外食の一人前がうまいことおさまらなくて同僚との昼食を断っている。減量中なんですよおと言い続けるのは少しいやだ。頭が痛いというのはもっといやだ。人に変に思われる。

でもそれも少しだけだ。すごくいやなのではない。少しいやだ。少し痛い。とても痛いのではない。

痛いよ、キティちゃん。

サラダとスープは明日の朝と明明後日の朝できっとみんななくなるだろう。たいした量ではない。


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